夏になる時、夏が終わる時。マイヘアの「夏が過ぎてく」を聴きたくなる話。
ナマステ!ぼっちシンガーです。
路上ライブで世界一周の旅を終え、現在は東京で音楽活動中。
旅と音楽について鼻息荒く語るだけのブログだよ!
6月から早くも暑い日が続いてる。
夏になったなぁなんて住宅地の電線の向こう、モクモクと盛り上がる入道雲を見上げながらつぶやいたりする。
強烈な太陽、息苦しいほどの気温、そして夜の少し冷えた優しい風。
暑くてしんどくて、あんなにはやく冬になんねぇかな、なんて思っていたのに、
どうせ、そんな夏が過ぎ去ろうとする8月の終わりには、寂しくなってるんだ。
「もう終わっちまうのか」って。
線香花火が落ちる1秒前みたいな切なさ、そして世界の終わりみたいな喪失感。
なんなんだろうね、あの感覚。
そしてその感覚をぶわっと、感じさせてくれる音楽が好きなんです。
毎年夏が近づくと、そんな感情の、 痛みを伴ったゆらぎを、音楽を通して味わいたくなるのだ。
そんな風に、夏になるといつも聴きたくなる曲がある。
My Hair is Badの初期のころの名曲「夏が過ぎてく」って曲だ。
もくじ
アルペジオのアドリブから曲が始まる圧巻のライブ
2013年ごろだったと思う。
僕が大好きなバンド、Hair money Kidsのライブを見に岡山のライブハウスに行った時のこと。
その時彼らが対バンとして新潟から呼んでいたのが、今や横浜アリーナも埋めちゃうモンスターバンドになり上がったMy Hair is Badだった。( マイヘアとヘアマネ。なんか名前が似ているが、 Hair money Kidsの方が先輩である)
当初はまだ駆け出しって感じで、数人のTシャツ着たファンがちらほらいるくらいだったんだけれど、とにかくライブがすごかった。一発でやられた。
こんなバンドが売れないなら日本のロックは終わってると思った。
スカスカのフロアに向かってVoの椎木 知仁が叫んでいたきれいごと一切なしの言葉の一つ一つとか、曲を追うごとに上がっていくバンドの熱量とか、とにかく初期衝動のままに切り付けてくる音や言葉が、すがすがしいほどに心を突き刺してきた。
その30分の演奏時間に、彼らが生きてきた20年のすべてが込められてる感じがして、いてもたってもいられなかった。
そんな彼らを知った夜に、中でも一番刺さった曲が「夏が過ぎてく」だった。
たぶんアドリブだと思うんだが、アルペジオで、絶望的な夏の夜のことを歌ってた。
ブラックニッカで酔って愛もなにもないセックスをした後の、底の見えない真っ暗な穴みたいな喪失感を歌ってた。
そして「忘れたくない」(みたいな事を言ってたと思う)と叫んで、曲が始まった。
“こんな時間になってもまだ明るいだなんていつもの帰り道"
というフレーズ。
夏の帰り道に話していた何気ない会話、その風景が、ドラマのワンシーンみたいに一気に脳内で流れ出して、止まらなかった。
同じような経験、絶対どっかでしていた自分がいる。
初めて聴く曲なのに、懐かしさがぶわっと溢れ出してくるのだ。
学生の時、夏の午後7時、徒歩のあいつに合わせてチャリを押して帰った時のまとわりつくなまったるい空気感、虫の声、明日には全部忘れてしまいそうなくだらない話、汗が少し冷えて、空に青白い星が見えた感じ。
きっと全部が美しかったわけでは無くて、醜くてよこしまな感情で人を傷つけたり、1時間に1本の電車も、コンビニも無くて田んぼばかりの景色も、地味な田舎の花火大会にも、心底飽きてしまっていたはずだ。
あの頃も、「ここではないどこかへ」ってずっと逃避を願っていたはずだ。
それなのに、過ぎて行くとなったら急に焦って、無理やりにでも手を伸ばしてしまう、見苦しい青春。
”あの夕焼けもあの帰り道も、夏が過ぎてく。”
サビでリフレインする痛々しいほどの「あの夏」への渇望。
俺達が欲しかったものは車でも時計でも女の子でもなくて、あいつが見つけたデカいセミの抜け殻だったんだ。
この曲を聴いてから、おれはすっかりマイヘアの歌う夏の虜になった。
椎木知仁の歌詞は掴みがズルくて、匂いがある。
とにかく掴みがずるいよね。
“こんな時間になってもまだ明るいだなんて、いつもの帰り道。"
その一番最初のワンフレーズで一瞬で持ってかれる。
暮れていく空を見上げながらあの子と帰った高校時代とか思い出しちゃう。
マイヘアのVo. 椎木知仁の書く歌詞は、出だしのワンフレーズの掴みがめちゃくちゃうまい。
“ブラジャーのホックを外す時だけ心の中まで分かった気がした。"
“別にいいよ本当君の事なんか。パチンコの玉ぐらいにしか思ってないしさ。"
歌詞の一音目で「え?なに?どういうこと?」って戸惑わせたり、「最低だ…」とあえて嫌悪感を感じさせたりして、とりあえず手段を選ばずに聴く人をそこに留まらせる。
気に入らなかったら次々スキップしていくサブスク時代に勝てる音楽。なんであえて、最近までサブスク解禁してなかったんや?
そして、一度掴んだら離さない。
彼が描く歌詞は、どこかで嗅いだことがある匂いを感じさせる。
自分も一度はどこかで経験したことがあったような、でも恥ずかしくて、辛くなるから閉じ込めていた思い出のような、そんなタブーにするすると忍び込んできては、あの頃にトリップさせる。
「18歳よ」とか、ほんとに心が痛くなる。二人の写真、深夜の交差点、ストーブの匂い、イチゴのクリスマス。
出てくるワードの一つ一つが、あの頃の匂いを帯びてて、なんかつらくなる。自分の歌ではないのに、自分の事を歌われている気分になる。
「指も入れ慣れた部屋」からの
“君の匂い残る中指にすら気づけない"
なんて最低だ。痛すぎて絶対に思い返したくないような若すぎたころの失敗に平気で手を触れてくる。
それでいて難解で、聴けば聴くほどに新たな発見がある。
たとえば、「彼氏として」。
星を見に行くのに
“言い方悪いかな?でも誰でもいいんだよ。”
なんて最低な本音を晒しながら「好きでも何でもない君のいない街」って歌うサビ。
「君」のことを好きでも何でもないと言っているのだと思っていたのだけれど、ずっと違和感があった。
この曲で歌われているのは、強がって素直になれずにいるけれど、実は未練たらたらな残念な男のような、そんな気がしてた。
本当は好きでも何でもないのは「君がいない街」の方なんじゃないかって。
本当に噛み応えがある。3分間の曲がまるで短編小説のような濃密な世界観を持っている。
その点、「夏が過ぎてく」はほんとシンプルだ。
あえて特定の関係性を連想させるような言葉は使わず、夏のワンシーンだけを切り取ったような歌詞。
でもやっぱり匂いがある。サビ前の
“またこぼれた。あれもこれも"
ってフレーズが好きだ。
結局全部だめで、何も変えられずに過ぎて行く季節の、残酷なあの感じ。
全然諦めきれないで、夏を引きずって湿っぽくなって、また花火の夜に見た君の顔を思い出してるあの感じ。
爽快さの欠片も無い陰湿でダメな夏。
でもその方が、僕らにとっては悲しいくらいにリアルで泣けてくる。
どうしようもなかった僕らの、あのころの匂いがするのだ。
マイヘアは夏が旬。今年も聴きまくるんだと思う。
なんか過去のライブレポや歌詞の研究やら好き放題書いてしまったが…
「夏が過ぎてく」に限らず、マイヘアは夏に聴きたくなる曲がほんと多い。
アフターアワーやサマー・イン・サマー、君が海もいいよね。
今年もまた思い出して、思い返して、マイヘアを聴いて夏に浸ろうと思う。
夏フェスとかも行きたくなるね。
やべぇ…今年のモンバス、マイヘアくるじゃねぇか…!ハンプバックもハンブレッターズも…!!?
行きた過ぎる…!!
めっちゃ仕事だけど…(会社員涙の敗北)
夏の終わりに、暮れゆく夕陽にあてられながら「夏が過ぎてく」やられたら、ほんとに最高だろうな…。
涙にくれながら、アーカイブ配信でも見たいと思います。あるんかな?
そんなところです。
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