【メデジン/コロンビア】メデジンの空に響くゆらゆら帝国と、初路上ライブの温かい話。
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朝!
昨日カリを出発したバスは、俺のこの旅、最後の滞在の地となる中部の街、メデジンに到着した!
夏色スカイで楽園ベイベーが脳内エンリピたまんねぇなウォーウォーウォ!されていた灼熱のカリとは打って変わって、メデジンバスステーションは濃い霧に包まれている。
外に出ると少し肌寒く、空を覆う厚い雨雲からはしとしとと冷たい雨が降り注いでいた。
まだ薄暗い早朝。
襲われないように1秒に十回くらいの高回転で後ろを振り向いたりしながらトボトボ歩くこと10分。
近くの駅までたどり着いた。
なんとここメデジン、街中をモノレールが出ているらしいのだ!
うむ、日本では当たり前だけれど、街中にこういう鉄道網が整備されてある街というのは本当に一部なので、なんだか久々の近代的な乗り物に、ドキドキする。
途上国では大抵どこも、オンボロローカルバスやトゥクトゥク、タクシーなんかが主な交通手段だった。
今ではもうそれが当たり前になっていたけれど、世界一周の旅最初の地で訪れたフィリピンのセブも鉄道網はなくて、
「私電車って乗ったことないの。どんな感じなの?」
と聞いてくる語学学校の先生の言葉にカルチャーショックを受けたんだったっけ。
立ち飲みのカフェでよくわからん揚げ物をコーヒーで流し込んだら、通勤ラッシュのオヤジ達に紛れて、やってきた電車に乗り込んだ!
モノレールから眺める近代的な街の風景、ビルと広告塔、つり革に捕まるサラリーマン達の風景。
今は、なんだろう、逆カルチャーショックみたいな衝撃を受けてる。
日本に帰ったらこんな景色は当たり前になっていくんだろうけれど、いまはとても不思議な世界の、何かヘンテコな魔法の乗り物なんかに揺られているような気分になる。
凝り固まった旨の隙間から吹き付ける爽やかな風のような、新鮮なこの感じを、なんとか忘れずに保っておきたいものだ。
大きなサッカースタジアムがある駅で降りて、予約しておいた宿を目指す!
メデジンには日本人のオーナーさんが経営するシュハリという有名な宿があって、南米で出会った旅人がみんな口々に
「シュハリは最高!!メデジンは南米1素敵な場所だよ!絶対行くべきだよ!うおぉぉぉきぇぇぇぇ!!」
と猟奇的な血走った目で語ってくれていたのだ。
うむむ!これは各国のおすすめ宿の詳細を事細かく紹介する情報系スマートブロガーとして有名なこのおれが、行かないわけにはいかない!
待ってろ迷える旅エンジェルズ達!おれが安全快適素敵でオシャレなコロンビアの宿達を徹底比較リポートしてあげるからねぇぇぇぇきぇぇぇ!!!!
ということで、
「20歳の女子大生です!ユウキさんのブログの情報、とっても為になりました!私、何かお礼がしたくて…あの、今度ごはんでも一緒にどうですか?」
とコメントをもらったらどうしよう、いやあ、おれも忙しいからね!そんな、人助けが好きでやってるだけだから気にしなくていいんだよ、いや、でも君の気持ちも尊重したいからね、そしたら、軽くディナーでも行こうか、この山の上に夜景の素敵なレストランがあるんだよ、なんて誘っちゃったりして…
きぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
と、奇声を発しながらありもしない妄想にひとしきりいそしんだおれは、事前予約をしていた宿がある住所にたどり着いた。
が。
ピンポーン!
……。
ピンポーン!
…
到着した建物の前。何度チャイムを押すも応答はない。
ありゃ?え、ここ?え、間違えた??
急に不安になるおれ。
それもそのはず、なんと住所の場所にあったのは、看板も表札もなにもない、一見ただの一般の民家のような建物なのだ。
治安の良くないコロンビアで、日本人が集まる宿と言うのが広まると言うのは安全上良くない、と言う理由から看板はなく、住所も事前予約のあった人にしか知らされないというのは聞いていたが…
あたりは旅行者なんて絶対にこないような、閑静でちょっと高級な住宅地といった雰囲気。
朝の散歩をするおじいさんおばあさんが、民家の前で挙動不審に立ち尽くす怪しいアジア人のこのおれを、世界の終わりみたいな表情で見つめてくる…
ひ、ひぇぇぇ!!!!!生まれてきてごめんなさいぃぃぃ!!!!!!!
居ても立っても居られなくなったおれは、大通りに面したショッピングセンターみたいなところに逃げ込む。
まだ開店前のお店ばかりの中、唯一店を出していたフードコートのコーヒー屋さんがあって、コーヒーを一杯。
代わりにワイファイを繋げさせてもらった!
「ごめんねー!!!こんなに朝早くつくとは思わなくて、寝てしまっていたよー!本当にすみません!」
ワイファイを繋いでもう一度、管理人のユウスケさんという方に連絡をすると、やはり宿はあの建物であっていたようだ。
もう一度宿の前までやってくると、ガチャリと扉が開いて、懐かしい日本語が聞こえてくる。
伝えていた予定到着時間はもっと後だったので、まだ寝ていたみたい。
「うおぉお起こしてしまって申し訳ないです!でもよかったぁぁ!」
「いやぁこちらこそすみません!ささ、入って入って!」
安堵して玄関を入るとすぐ!
「うおぉおこれは!!!!!」
なんと、宿の入り口にはそれはそれは立派なドラムセットが!!!
「え!ユウスケさんドラムやるんですか!!?」
「そういう君も背中に背負ってるのはギター!?音楽やるの?いいね、なんか弾いてよ!」
「よっしゃならなんか叩いてください!!それ」
ジャガジャガダカダカ!!!!!
まだ部屋に案内もされてなければ、リュックも背負いっぱなしなんだが、まるでそれはそれは当たり前に楽器を手にとって、自然に流れ出す音楽が、それはそれは心地よかった!
出会って3分しかたっていないというのに!
すでにおれたちはファンクなリズムでジャムっていた!!
なんてことだ!この、言葉より先に音楽で自己紹介する感じ。
もう足を踏み入れて3分で、シュハリ、大好きになってしまった!!!!
「ゆーすけさんはどんな音楽を聴くんですか!?」
「やっぱりね、ライブがかっこいいバンドが好きなんだよね!日本だと、年代的にも、ミッシェルとか好きだな!」
「うおおお!ミッシェルでライブといったら"上に飛べ上に!"ですよねーー!!ぎゃはは!」
「"ペットボトル事件"のやつとかね!あとブランキーの解散前のライブとか見た!?ヤバイよあれは!!」
「うおお!ブランキーも好きなんですね!俺はそれくらいの年代だと、ナンバガとか、ゆら帝とかも好きですよ!」
「ゆらゆら帝国の坂本慎太郎、ほんとに気持ち悪いよね!!もちろんいい意味で!ちょっとこのギターソロみてよ!人間の動きじゃねぇよな!」
「うおおおおお!!!!」
オーナーのゆうすけさんは根っからのロックバンドオタという感じで意気投合、二人で鼻息を荒くして、YouTubeのライブ動画を見た。
ドラムセットがど真ん中を陣取る宿のエントランスには、朝っぱらからゆらゆら帝国が爆音で流れていて、画面の中の坂本慎太郎が"俺はもうダメだ!"とちぎれそうな声で叫んでいる。
どうしようもなくてもんもんと、鬱々と暮らしていた青春時代の、ひとりぼっちのおれにいつも寄り添ってくれていたロックバンド。
今日改めてそのひん曲がった正義が脳天から全身を打ち抜く。
地球の裏側まで来て、なんだか大事なおれという人間の根元に改めて触れることができたような、そんな空間であった。
夕方。
宿でいい感じに感性を刺激されたおれは、電車に乗ってメデジンの街の市街地にでた。
あと5日後には、首都のボゴタから出る飛行機で、日本に帰るおれ。
手持ちにはまだ100ドル分ほどのお金はのこっており、歌わなくても何もせずにのんびりしていればお金は持ちそうなのだけれど、やはり最後まで、歌って歌って、この旅を終わらせたい。
音楽を通じて見えるその街の当たり前の景色や、通り過ぎてすれ違うはずだった人たちとの、奇跡みたいな出会いに、心底恋をしている。
コロンビアで路上ライブ、どんなリアクションがあるのかはわからんが、もしいくらか稼ぎになれば、心配をずっとかけて来た親やばあちゃんに、ちょっとは素敵なお土産をプレゼントしたいとも思っている。
ゆうすけさんに路上ライブするのにいいところはないかと聞くと、街の中心部に大きな大学があって、その入り口付近はたまにパフォーマーがやったりしてるよ!と教えてくれた。
到着した、大学の門から伸びる数十メートルの並木道には、長い髪のヒッピー達が、手作りのアクセサリーや変な置物を地べたに並べて売っていた。
奇麗な格好をした学生や先生達が、数十メートル置きに店を出すそんなヒッピー達の間を気にせず歩いていく。
通りは店を出す人達が多くて、邪魔になりそうだったので、大学から駅に伸びる遊歩道の上で立ち止まり、
よし、ここで歌うぞ!
と覚悟を決める。
…つもりになってみたけれど、コロンビア初めての路上ライブである。
こ、こわい!!
気に入られなかったらどうしよう!もしギャングみたいなのに絡まれたら…!!
色々と、悪い妄想が頭をめぐる。
ギターケースからギターを取り出せずにモジモジしていると、りんご飴みたいな小さな飴をカゴいっぱいに入れた物売りのおばあちゃんがやって来た。
おれの隣までやって来て、おれと目が合うとニコリと微笑んだ。
美味しそうだったので500ペソで一個飴を買って、ジェスチャーで
“ここで、ギター、弾いてもいいかな?"
と聞いてみる。
「あーあー!ナイスナイス!」
しわくちゃな笑顔でグッと親指を立ててくれる。
なんだか急に肩の力が抜けて、手の震えが落ち着いた。
よし、やるぞ!
と勇気付けられる。
やっと取り出せたギターのストラップを肩にかけて、じゃらんとGコードを。
さっきまでの不安もどこへやら、一瞬で世界が変わる。
歌うんだ。
最後まで!
一曲歌うと、早速大学生っぽい女の子が
“これで旅をしてるの!?すごいわ!"
みたいな事を言って驚いた顔をしながら、500ペソ硬貨を入れてくれる。
いけるぞ、なんて思ったんだけれど。
「ここはダメだ!通路は駅の管轄だから!」
やって来た警備員さんに止められてしまう。
隣で座って聴いてくれていた物売りのおばあちゃんと一緒に、追い出されてしまった。
仕方なく、遊歩道を降りた、大学とは反対側の通りに出て、またギターを取り出した。
目の前にバス停があって、大げさなエンジン音を響かせて大きなバスが行ったり来たりしていてうるさい。
人通りもそんなにないんだが、バクバク、バクバクと自分の心臓の高鳴りが大げさに聞こえて、「歌え!いますぐ歌え!」と語りかけてくるみたいだ。
テンションが上がっている今、すぐにでも歌いはじめないと、また殻に閉じこもってしまうことは、自分が1番よくわかっている。
だだっ広い歩道で、街路樹を背に精一杯歌った。
歌いはじめて数曲は通りを歩く人もまばらで、なんか寂しかったけれど。
5時を過ぎて学校帰りの学生達が多くなってくると、たくさんの人たちが立ち止まってくれるようになった。
自分もギターを弾くんだという大学生が、片言だけれど英語で話しかけてくれて、一緒に写真を撮った。
ヨチヨチと歩いて来た、まだ学校にも行ってないくらいの小さな女の子が目の前で立ち止まって、くるくると回っては楽しそうに踊りを披露してくれる。
後に続いてやって来たお母さんも、手を叩いて楽しそうに見てくれている。
20メートルくらい向こうで、フライドポテトの屋台を出していたお姉さんが、何かの袋を手にやって来た。
やばい、
「商売の迷惑だからやめてちょうだい!」
なんて追い出されるんじゃないか、と覚悟したけれど、おれの目の前で立ち止まったお姉さんはニコリと笑って
「はい!」
とその袋をおれに差し出してくれる。
「食べて!ナイスミュージック!」
熱々のフライドポテトを差し出してくれて、胸に手を当てて、「感動したわ!」みたいなジェスチャーで微笑んでくれるのだ。
ちくしょう、嬉しすぎて、久々の路上ライブの、この高揚感も相まって、胸がバクバク、そして感情がぐっと込み上げてきて、涙が出そうだった!
珍しく人だかりまで出来て、燃えるような心の温度で歌えていたけれど、日が沈み出して、辺りが暗くなってきたので帰ることにする。
最後まで聴いてくれていた大学生の男の子とインスタを交換して、「また会おうぜ!シーユーデン!」と握手した。
普通に街を歩いていたら、起こるはずのない奇跡が、歌声を吐き出す毎秒ごとに繰り広げられていく。
路上ライブは素敵だ。音楽は、口下手なおれに残された、たった一つのナイフであり、または誰かに差し出すための気取らない花束だ。
メデジンの人々の優しさに飛び込み潜り込んでじゃれあったような、暖かな時間だった。
チップは28000ペソ、約1100円!
宿一泊ぶん浮いた!本当にありがとう!!
メデジンの市街地をモノレールに揺られながら眺めた。
ガタンガタン、と揺れるそのレールの音が久しぶりで、暗くなった街に明かりが灯って眺めたら、ぐるるとお腹が鳴る。
駆け足で駅を出て宿にたどり着くと、ユウスケさんが他の宿泊者たちと一緒にシェアご飯で冷麺を作ってくれていた!
近くの売店で買っておいたビールを開けて息を吐くと、たまらない充実した気持ちになった。
今日も一日、いい日だったなぁ。
そんなことを思いながら、もうすぐそこの旅の終わりに、ちょっと感傷的になって、タバコに火をつけてイヤフォンを耳にした。
吹き抜けの喫煙場所から空を見上げたら、小さくポツンと月が見えた。
ハンバートハンバートの歌声がとても綺麗で、参った。
そんなところです。
追記…
この記事は僕が2016年9月にメデジンに滞在していた際に書いていた旅のブログです。この数ヶ月後、世界一周旅行中の大学生の男性が、この街で何者かに射殺されるという痛ましい事件が発生しました。ぼくが滞在していた時の感覚では、そう行った凶悪犯罪とは無縁の、安全で都会的な印象を受けたメデジンでしたが、それでもこんなことが起こるのか、と驚きと恐怖を感じました。このブログでは実際にぼくが体験したことをありのままに書き記しているので、路上ライブをしたり、薄暗い街を一人歩きしたりと、犯罪に巻き込まれかねない危ない行動の記載もあります。事件後に訪れたのであれば、僕自身、こんな事はしなかったでしょう。危ない目に合わなかったのはただラッキーだっただけかもしれない。僕は路上ライブを通じて感じた地元の人達との触れ合いや、もらった愛の美しさを少しでも読んでいる方にも感じて欲しくて、このような内容のブログを掲載しています。しかし、これからこれらの地域に旅行を検討されている方には、このブロガーは路上ライブまでやっても何も危ない目には合わなかったのだから、なにをやっても大丈夫だろう、なんて風には捉えて欲しくないのです。結局は自己責任、運だ、なんて無責任な言葉を使ってしまうのが辛いのですが、いつなにがあってもおかしくない地域であることを十分注意して、大丈夫だろう、という油断は絶対に捨てて渡航してください。得るものの多い、しかし安全で素敵な旅を願います。このブログでの僕の体験談が、少しでも旅する人たちに良い影響として残って欲しくて、このようなあとがきを記させていただきます。
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