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開始直前に隅田川花火大会へ行くとこうなるという話

2020年1月22日

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ちょっと前だが、書き留めていた日記を。




梅雨も明け、久々の快晴に恵まれた7月下旬のある日。

おれの胸は踊っていた。

夏だ。夏が来たのだ。

キモオタぼっちなおれだが、夏は色々できるから好きなのだ。唯一得意なスポーツはスイカ割りだし、カブトムシも獲れるし。


(うーむ、こう天気もいいと、どこかに出かけたくなるぜ…)


と、乾いた風を絡ませ、ハニーソースイートして考えていると、偶然!

数少ない友達、大学時代の後輩から連絡が来た。



「がもさん!明日、新宿の中央公園で映画とクラフトビールのイベントがありますよ!一緒に行きませんか?入場は無料なので低所得層のがもさんでも楽しめますよ!」



「えっ?む、無料!??…い、いや、でもさ、別にさ、おれもさ、お金が無いってわけじゃないんだよ?べ、別に無料だからって特に惹かれる事はないしさ…ま、まぁ、でもさ、映画とかはさ、オシャレで高尚な僕の趣味に合ってるっていうかさ…だからその…


「グズグズうるせぇ行くのか行かないのか!?はっきりしろクズ!」


「ひ、ひぃぃぃぃぜひ行かせてください!!無料バンザイ!!」



野外で映画!??クラフトビール!??

超シティーっぺぇぇぇ!!!

東京の夏感!!

フフフ…ぜひとも参加して、このイベントの事をブログに書いてやろう。

そうだな…


“仕事終わりに友人と新宿のセントラルパークでクラフトビールを嗜む。野外モニターではスタンドバイミーが流れている。ゆっくりとした時の流れに、摩天楼にアップデートされ取り残された過去の記憶をリカバリしながら…"



とか書いてやろう!!!

ふはははは!!!エレガンスでインテリジェンス、アリストテレスでソクラテスである!!!

ところでリカバリってどういう意味だろう?

などと考えながら、

中目黒のオフィスを定時上がりし、帰りの乗換駅である新宿に立ち寄るIT系青年実業家、という自分の設定まで決めたところで、この日は眠りに落ちた。




しかし…




迎えた当日。

台風接近!!!

くっ!!!!おれがオシャレな嗜みを披露しようとしたらすぐこれだ!!

しるか!雨天決行と書いてあるし、後輩も待っていることだ!!とにかく新宿へ向かうんだ!!

当日、仕事だったおれは、6時の退社時間きっかりに職場を飛び出し、もう帰るのかい?という周りの視線をマルセイユルーレットで華麗にかわしつつ、電車に飛び乗った!!

しかし、どこで待ち合わせをするか話し合おうと、スマホを取り出すと…

「がもさん!今日雨だわ!やめとくわ!」

と後輩からラインが…



ひぃぃぃぃいいいいん!!!


いいもん!!!別にいいんだもん!!!おれ一人で映画をエンジョイするもん!!!スタンドバイミーぃぃぃ!!!!

取り乱しながら、しかし、腕時計(500円)をアップルウォッチに見立ててスケジュールを管理するそぶりを執拗に披露したりして青年実業家の役作りは抜け目なくやりながら、とりあえずおれは新宿に向かった。

なんだかんだで、都会のビル群に囲まれてしっぽりと飲みながら、ムーディな映画鑑賞なんて、すごく面白そうだと思ってたんだ!どうせいつも一人で好きなところに行ってるんだ!孤独なんて感じないんだ!

台風だと雨の予報であったが、今のところ全く降りそうにもないし。

行ける!!

そんなで、ひとりでできるもん系シンガーのおれは、意気揚々と山手線を降りた。

到着し、土曜日の夜で混み合う改札を抜けようか、というところでライン。




「今日隅田川の花火があるから。来なさい!」


ようちゃん(彼女)だ!

ようちゃんの職場は花火大会の会場近くにあり、話を聞くと、職場の屋上から花火が見えるのだという。

そこに彼氏も連れてきていいよーと、お誘いがあったのだという。

いやぁしかし、時刻はすでに7時前。

今から行っても開始時間には間に合わない。

それに人多そうだし。

映画の方がいいや。

そこでおれは男らしく断りを入れる事とした。

「拝啓よう様、この度はお日柄もよく、ますますのご活躍を…さて、今回のイベントにおきましては御誘い頂きました事、誠に光栄に思います。しかしこの度の台風の影響、さらには私ごとではございますがただ今新宿にて映画を見るために…

「やかましい!!来るの!?来ないの!??どっち!??」

「ひ、ひぃぃぃ行きます!!!!!」


そんなで、一気に予定を変更し、おれは一路浅草へと向かった。走れメトロ風より早く!!

しかし…!!!!

到着してすぐ、改札を抜ける前から…

人!
人!
人!!!!


もう電車を一歩出たその瞬間から、四国の全人口分くらいいるんちゃうんかというほどの、おびただしい人の群れ!!!

暑さと周囲の人々からの圧迫で、朦朧としていく意識…

ナンジャこの人の多さは!!!!くそう!!!過疎だ過疎だといいながら、四国にこんなに人がいたなんて!!くそう、さてはどいつもこいつも愛媛県民だな!??愛媛め、人口だけは多いからっていつも四国代表みたいな顔しやがって!!ちくしょう!!許さんぞ!!

香川県民の日課であるライバル愛媛の悪態をつくことしかできず、道もわからずに、ただ前を歩くショートボブが浴衣に似合うかわいい女の子の後を追って歩くと大通りに出た

…ものの、人の波に押されて流されて、歩道の真ん中でもみくしゃに。

ついには一切身動きの一つも取れなくなってしまう。



ひ、ひぃぃぃ!!!



舐めていたぜ…東京の花火会場がこんなに混み合うなんて…!!!

いつの間にかはぐれてしまった浴衣の女の子に変わって周りを埋め尽くすおっさんたちに囲まれながら、自分もまたそのおっさんの一人でがあることを自覚する余裕もなく、


「くそう!おっさんに圧迫されて死にそうだ!!ちくしょう!!」


と、おれは一人で泣きそうになっていた…

その時、電話が鳴る。



「まだ!??おそい!!」

「ごめんなさい…人多すぎて進むことも戻る事も出来ないんです!それはまるで人生の様に残酷で、過ぎ去りし青春の様に儚く…


「うるさい!どうせ浴衣姿の女の子について行ってたら道に迷ったとかそんなんじゃないの!??」


「い、いえ!決して片編み込みのショートボブからのぞくうなじが素敵な浴衣美女を追って迷子になったとかそんなことは断じてありませぬ!!!」



「このクズ!とりあえず私はもう職場戻らないといけないから!来年はもっと早くきなさい!」


「は、はい…」


そして、道端で売っていたビールを買って、なんとかビルの隙間から花火が見えるスポットで苦し紛れに数分だけ鑑賞を終え、暑すぎる!もうだめだ!と電車に乗ったおれ。

何をしにきたのかしら。

そんな思いを夏の湿った風にそっと飛ばしながら、京浜東北線はどこまでも続いていく…



そんなところです。


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