バンコク・フアランポーン駅が無くなるそうなので、人生初海外旅行の思い出を語る話。
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サワディーカップ!ぼっちシンガーです。
路上ライブで世界一周の旅を終え、現在は東京で音楽活動中。
旅や音楽、その他もろもろについて語るよ。
【9月20日 AFP】タイの首都バンコクで100年近く玄関口として親しまれてきたフアランポーン(Hua Lamphong)駅。イタリアネート様式の柱とステンドグラスが特徴的なこの駅から、絶え間なく鳴り響いていた列車の発着音が間もなく消えようとしている。
熱帯の玄関口「フアランポーン駅」、消えゆく発着音 タイ https://www.afpbb.com/articles/-/3364703 より引用
タイのフアランポーン駅が無くなってしまう。
流れてきたそのニュースを見て、いろいろ思い出した。
はじめての海外旅行で、一人バックパックを背負ってタイを旅した大学時代の事。
もう10年も前になる。
大学卒業前、最後に何か、今しかできない事をやっておきたい、なんて焦って、
HISの航空券とホテルがセットになった一週間のパッケージチケットを購入したんだ。
たしか値段は7万円ちょっと。
今思えばもったいない事をした。
当時でもネットで探せば、バンコクまでの航空券なんて往復3万円くらいで買えただろうし、
ホテルも、バックパッカー御用達の安いゲストハウスを探せば、一泊1000円くらいでいくらでもある。
でも当時は、周りにそういう『バックパッカー』みたいなことをしている友達もいなかったし、
SNSも今ほど発達していなくて、情報もほとんど知らなかった。
一人で海外に、しかも東南アジアに行くってそれだけで、
戦争に行くくらいの大袈裟な心持ちだった気がする。
何もわからないし不安だらけで、だからこそ世界を見てみたかった。
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夜に バンコク・スワンナプーム国際空港に到着して、
そのまま送迎バスで市内のおんぼろビジネスホテルに向かった。
空港から出た時の、ぶわっと体中をまとわりついて離さない熱気の感覚。
7時間前、日本を出た時はあんなに寒かったのに。
そしてバスを降りた時に感じた、町中に充満する、スパイスとアンモニアの匂い。
人々の口から発せられる全く意味の分からない言語。
本当にここは外国なんだ。
人生初の海外旅行で感じた強烈な異国感。忘れられない。
到着して数時間は、ホテルに引きこもった。
怖くて怖くて仕方がなかった。
鍵はかけたか?強盗に襲われたらどうしよう。
震えながら、しかしお腹が鳴る。
朝から機内食しか食べてない。
窓の外から街を見下ろす。
ネオンに照らされる裏路地、バイクに二人乗りするカップル、
雨水なのか糞尿なのか分からない茶色い水たまりに口をつけ、
恐る恐る舌を出して飲もうとしている野良犬。
空腹でどうしようもないのと、抑えきれない好奇心。
恐る恐る外に出て、徒歩30秒のセブンイレブンへ。
日本のおにぎりや、見慣れたカルビーのお菓子も売っていて、驚いた。
言葉の通じない店員は気だるそうにお釣りを渡してくれる。
日本と同じようなサンドイッチと、普段は買わないのに格好をつけてビールを買ってみた。
部屋に帰ってビールを開けたら、
一人で街に出て、海外で初めて買い物が出来た!
とんでもなく大袈裟な達成感がこみあげてきて、なんとも言えない幸福感に包まれた。
やった!俺にできない事なんてないぞ!
熱帯特有のぐでんぐでんに蒸し返す暑さの中で飲んだ、冷えたビール。
うますぎて感動した。
普段からお酒なんてあまり飲まなかったけれど、
この時初めて、ビールのおいしさに気づいた気がする。
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そこからの一週間。
市内の宮殿を訪れたり、大きな仏像を見たりしたけれど、
一番思い出に残っているのが、バンコクから鉄道で3時間かけて向かった、アユタヤーまでの旅路だ。
バンコク中央の鉄道駅、フアランポーン駅で一番安い座席のチケットを買った。
行き場もなくごった返す人、大きな荷物を枕に 床に直に転がって眠る旅行者、ボロボロな服の物乞い。
それまで利用していた、日本と変わらない地下鉄や都市部の雰囲気とは違う、
カルチャーも価値観も全部ごちゃまぜの、カオスな世界。
日本でずっとイメージしていた、東南アジア!な世界が広がっていた。
時刻表も見当たらなくて、チケットを見ても何番線から出る電車なのか、
何時の電車なのか、それすらも分からない。
周囲の人に声をかけまくって、やっと英語が通じる人を見つけて、
乗り込んだおんぼろ列車。
(本当にこの列車でいいのだろうか?)
(僧侶が乗ってきたら席を譲らなきゃ。)
(居眠りしたら命とりだぞ!)
いろんな不安を抱えながら、発車のベル。
バンコクの街を抜けると、北部の田園風景やヤシの木の森、草原が広がる田舎の景色。
冷房なんてないから、大きな窓を開け放して、熱帯の空気を体全体に浴びる。
通り過ぎる田舎道の先、ポツンポツンと点在する家々の、
そこで暮らす顔も知らない人々の生活を想像してみたりする。
iPodで大好きなandymoriを流しながら、ただひたすら続く線路を進む。
不安なことや、やりきれない事もあるけれど、
Everything is gonna be alright!ねぇ君、間違っていないよと言って。
気持ちいい。今にも歌いだしてしまいそうだった。
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こうして向かった旅の目的地、アユタヤーでは、暑くてふらふらになったり、
トゥクトゥクのオヤジに騙されたりしながらもたくさんの遺跡や仏像を見学した。
感情干物青年だった僕は、世界遺産を眺めるだけでは、特に何も感じなかった。
歴史マニアでも仏像マニアでもない僕にとって、
それらはただの瓦礫に埋もれた古い遺跡でしかなかった。
良かったのは、その遺跡群を遊び場にして駆け回る、近所の子供たちの姿を見れたこと。
世界中から旅行者が訪れるような貴重な歴史遺産であろうと、
子どもたちにとっては、生まれ育った町の、何でもない日常の風景なのだ。
「太古のロマンだね…」などと深妙な面持ちの大人たちをあざ笑うかのように
子供達がその遺跡によじ登って遊ぶ。
歴史的価値を叫ばれ、手厚く保護され管理される遺跡たちはまるで、
身動きの取れないベッドの上で、チューブをつなげて延命治療されている老人のようだ。
そうではなく、ただ朽ちるにまかせてただそこに存在し、子供たちの遊び場を提供する、
その方が遺跡たちにも、存在の意味があるように思えた。
未来のために過去は存在するのだ。
そんなことを考えさせられた気がしたし、私たちの本来あるべき姿だと思った。
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この旅では、幸せそうな現地の人にたくさん出会えたことも、よかった。
自分の未熟な人生観を見直すきっかけになったからだ。
世界中、どんな観光名所にも、見たことも無い様な僻地の限界集落にも、
そこに住む人たちの、その人たちなりの当たり前が存在する。
彼らは彼らなりの普通を日々、楽しみながら暮らしている。
当時、まだまだ東南アジアは発展途上国だと認識されていた。
旅に出る前は、現地の人々と日本での生活の差を体感することで、
日本で暮らせることがいかに幸せかを実感できるような、そんな気がしていた。
日本人である事に変な自惚れがあったのかもしれない。今思えば、視野の狭い感覚だった。
実際は違った。
全く違った。
幸せのベクトルなんてものは無限にあって、
日本人の感じる幸福感なんて、世界人口の中の70分の1でしかないのだ。
日本人の物差しで人種も宗教も違う人々の幸せは計れない。
まず自分は彼らなりの普通をまったく知らない。
そう実感できた。
もっと知りたいと思ったし、知らない世界がこの世に無限に存在することが、
ワクワクしてたまらなかった。
この時の、『自分はこの世界の何一つも知らなかったんだ』という衝撃を得られた事が、
人生初の海外一人旅の、一番の収穫だったように思う。
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なんかフアランポーン駅あんまり関係ない話だったけれど(笑)、
ついつい昔の事を思い出して熱くなっちゃったので、
自己消化の意味も込めてこんな記事を書いてみました。
フアランポーン駅はこの旅の後の世界一周中にも、ラオスに抜ける深夜特急に乗る時に利用した。
いつ行ってもあの駅の、熱気あふれるいい意味でぼろダサい感じが、
最高に旅してる~って感じで好きでした。
駅前の屋台に少しだけ日本語をしゃべる、中学生くらいの若者が働いていて、
名前を『おれはナカムタシュンスケ!』と名乗っていた。
サッカー日本代表のファンなんだ!と言ってて、
僕が日本人と分かって、サッカーの話で盛り上がったんだよな。
彼はまだ、あの屋台で働いてるんだろうか?
それともコロナもあって、店は閉じただろうか?
旅で出会った一人一人の人たちのその後を、
こうしてたまに思い出してみたり、する。
コロナが終わったら、またバックパックを抱えて、
確かめに行ってみたいな、とか思う。
そんなところです。
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