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【エン・ゲディ/イスラエル】死海のヒッピーのおうちに訪問する話

2020年2月20日

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今日の旅の一曲!BUMPOFCHICHENの “supernova"!
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終了

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………………..

パレスチナのラマラを出発したおれは、ヒッピーの住む隠れビーチがあるという死海沿いのバス停でバスを降りた。

切り立った赤褐色の岩山、少し遠くに見える死海は波もなく、対岸のヨルダンの大地を水面に映している。

人1人見当たらなければ、民家の一軒もない。

途中、巨大な怪しい穴なんかも発見し、なんだか不安不安ヒッヒーザステーップステーップ!なおれ。

1人で膝に手をついて、エグザイルの真似事をしながらそれをごまかし、とぼとぼ死海の方へ歩いていくと。

「ハロー」

ひゃぁぁん!!

「は、ハロー!」

び、びっくりした。

おやじだ。

野生のおやじが後ろから声をかけてきた。

な、なんだ。野生の美少女かと思ったのに!驚かせやがって!と思いながら、コマンドの「逃げる」ボタンをクリックしようと目を逸らそうとしたが…

ん?

おやじの股間のから、ひょっこり顔を出すヤツメウナギが…

ひ、ひゃぁぁぁぉ!!!!!!

そう、驚愕である。

おやじは全裸だったのだ。

いやこれ、日本なら通報レベルなんだが、あれだ!かなり深部のヒッピーのおっちゃんだ。

たまに自然共存型のライフスタイルを極めるがあまり、服を脱ぎ捨て、山奥で暮らしている人がいるというのは聞いていた。

やべぇ初めて見た!というトキメキ3パーセント、萎え97パーセントぐらいにおれの心をかき乱し、誇らしげにうなぎを揺らしながら去っていくおやじを見送る。

うーぬ、in to the wildやったけ?
そんな名前の映画見た時に、全裸のヒッピーの女の子が現れるシーンがあって、

“ふむ。世の中には多様な生き方があるものだねぇ"

と、考察のために何度も巻き戻しして見たけど…

現実にはこんなもんか…

落ちた気持ちを、女子大の教授になったおれが、世界一周の経験から多様な生き方をみんなで実践して体で学ぶ、"現代ヒッピー論"の授業を担当する事になったなら、という妄想で持ち返したおれ。

そんなで、おれは20代前半の女性ヒッピーを探すため、おやじがやって来た道をたどった。

わわ。

なんじゃこりゃ?

湖沿いにパーキングエリアのような場所があったんだけれど、ずいぶんと古ぼけている、というか廃墟。

隕石みたいな岩があちこちに転がっているし、ガソリンスタンドや売店はシャッターが閉められ、有刺鉄線が張り巡らされて、な、なんか物々しいぞ…!!?

そんな廃サービスエリアを抜けると、芝生が伸びきった公園に出た。

奥には死海が見える。

古ぼけた看板には、「この奥、ビーチ!」と書いてあるんだけれど、その横に、遊泳禁止!の看板が立てられている。

ど、どっちやねん…

恐る恐る、そのビーチの方に進んでいった。

すると、おや!

芝の広場に、テントが張り巡らされたいかにもな小屋?が見えた。

怯えながらも、怪しまれないよう、ちょっと道に迷っちゃいました系迷える子羊感を出すために、めぇぇぇと言ってみたり草をかじったりしながらゆっくり近づく…

テントの奥が、ガサゴソ揺れている!

だ、誰かいる!

勇気を持って声をかけてみる。

「めぇぇぇ、あ、じゃなくて、ハロー?誰かいますか?」

ガバッ!!!!

「…??」

で、出た!!!!!!

「ハローハロー!!!どうしたんだい??」

テントの奥から出てきたのは、思ったより陽気な雰囲気のおっちゃん!例外なく全裸である!!

おっちゃんのナウマンゾウと目があって硬直しているおれを見て、

「あぁー!!ごめんごめん、服着てくるからまってて!」

と恥ずかしそうに中に戻っていった!

なら最初から隠しとけ!!と心でツッコミを入れる。

久々の来客がよほど嬉しいのか、

「まぁまぁ!紅茶でも飲んで行きなよ!!座って座って!!」

と家(ただ布敷いただけやけど)に上げてくれたおっちゃん。

手際よく手作りのコンロにマキを入れ、火をおこしだした。

「どこから来たんだい?」

「日本だよ!」

「おおそうか!そうかそうか!遠くからよく来たね!なんでこんな場所へ?」

「死海で泳ぎたくて来たんだ!ビーチがどこにあるか知ってる?」

「あぁ、ビーチならこの丘を下りてすぐあるんだが…今はクローズしてるんだ。イリゲーテッドしてるからね」

「イリゲーテッド?」

よう分からんのでケータイで調べると、水で侵食された、みたいな感じの意味が出てきた。

「昔は、あの山の中腹くらいまで死海の水があったんだ!だけれどどんどんと水位が下がった。死海は塩分が多いから地中に大量の塩が残された。それがたまに降る雨で溶けて、地中にデッカな穴ができて、地盤沈下したんだ!」

あぁ!!!さっきの世にも奇妙なクレパスは、それか!!!

「昔はここは有名な黒海のビーチだったんだけれど、それのせいで遊泳禁止になったのさ!誰も来ないからおれも暇なんだよ。」

おっちゃんの名前はデビドと言った。

ビーチが封鎖になる前からここにテントを立てて暮らしているらしい。

「どうしてここで暮らし始めたの?」

「うーん、おれは昔、テルアビブのシティでワーカーとして暮らしてた。でも、何でもある生活の中で、幸せを感じられなくなったんだよな。それで、仕事を辞めてここにやってきた。ここは自由さ。」

「家族はいないの?」

「ここに訪ねてきてくれる旅人みんなが家族みたいなもんさ!この間はアメリカ人、一ヶ月前は中国人の女の子が一人、やって来たよ!」

若い頃、世界50ヶ国を回ってた旅人だったという彼。懐かしそうな目でおれを見ては語る。

「旅に満足する事は絶対ない。ネバーエナフだ。でもいつか終わらせなきゃならない時が来る。体も弱くなるし、金も尽きる。でもここなら、世界中から旅人がふらりと立ち寄ってきて、話を聞ける。自分がその街を旅した気持ちになれる。おれは旅が好きだからね!それもここに住む理由かな!」

マキの火がチリチリと音を立てて、ヤカンが豪快に湯気を吐く。

ミントを入れたカップに、熱々の紅茶を入れてくれた。

熱いお茶をすすって、耳をすますと、風の音と、鳥の鳴き声だけが聞こえた。

「彼らはおれの友達さ。毎日餌をやってるんだ。いつも食事のお返しにシットをくれるぜ!ヘッヘッヘ!」

と、手作りの餌入れが釘で打ち付けられた木の幹を指差した。

ほのぼのした。なんていい場所なんだろう。

街の喧騒からはなれた、別世界で暮らしてる感覚。

そこにあるのは自然と、ほんのわずかな人の持ち物と、それだけ。

ここじゃ、イスラエルもパレスチナも関係がないように感じた。

しかし、そんな時だった!

「はっ!!!シット!!ファック!!!!&;&(&:&:@;&:$/)/@!!!!」

ケータイを片手に眺めていた彼が、急に怒り出した!

「なになに??どうしたの??」

「何て事だ!!!今、ニュースに出てるんだ!エルサレムで、バスの爆破テロがあったって!!」

「えっ!?!?」

おっちゃんが慌ててケータイのテレビで、NEWSをつけた。黙々と黒煙をあげるバスと、警官隊たちに抱えられてよろけながら救助される人たちが写っている!

つい40分前の出来事らしい…

マジかよ、エルサレムって。一昨日おれがいたところだよ。

NEWSの内容はヘブライ語なのだけど、おっちゃんがひとつひとつ英語に訳してくれる。

「まだテロかどうかは分かっていないって言ってるが、パレスチナだ!パレスチナに決まってる!やつらはいつもいつも、こんなひどい事を…!!」

おっちゃんは泣きそうな顔をして興奮していた。

ハッとする。

朝までいたパレスチナ自治区で出会った人たちの、イスラエルを憎む表情と、おなじだった。

同じ民族、仲間が無意味に殺されていく。それを悲しむ心の形はおなじなのに、その刃は向かい合っている。

同じ人間なのにな。

悲しむおっちゃんとはまた別の意味で、おれもとても悲しくなった。

昨日のパレスチナ人のおじいちゃんや、朝のジョニーの顔を思い出す。

重苦しい話ばっか聞いてきた。

黒海じゃそんなこと考えることもないだろうと思っていたけれど、ボーダー一本越えただけで、明らかにここはイスラエルだし、向こう側はパレスチナだった。

映像には、見慣れたエルサレムの新市街に、いつまでも黒煙が上がっていた。

戦争って、ほんとなんなんだろうな。

しばらく食い入るようにニュースを眺め続けたおれたち。

おっちゃんが切り出す。

「はぁ。とにかく、どうやら今は死者は出てないみたいで安心だ。落ち込んでいても仕方ない!ほら、海を見てごらん!今の時間が、ここの景色でおれが一番、好きなタイムゾーンさ。」

小高い丘の上に立つテントからは、波ひとつない透き通った水面に、赤や青や、宇宙の黒を混ぜたような深い紺色やが混ざり合って、写っているのが見えた。


ヨルダン側の山々も鏡のように写っている。


アクリル絵具で、ガラスにペイントしたような、透明な世界。

な、なんて美しいんだ…!!

死海は塩分が濃すぎて魚がいないらしい。

無機質で生き物の温かみがないんだけれど、そのぶんまるで別の惑星に迷い込んだような、不思議な美しさがあった。

一分と同じ色をキープしない空は、だんだんと熱をなくしていき、やがて深い闇が訪れた。

一番星が輝き始めて、最後に記念撮影をして、おっちゃんと別れた。

「ここに泊まっていってもいいんだぜ?」

と言われた。たしかにこんなところ絶対宿もなければバスももうない。けど、今日はなんか、一人で空を見ながら寝たかった。

「もうちょっとあたりを散歩したいんだ」

と言うと、おっちゃんはそうか、と笑って何も聞かなかった。

湖沿いまで出て、岩だらけの荒野に、金網のフェンスみたいなのが捨ててあって、寝袋を敷くとバネになって、いいベッドになった。

寝転がって見上げると、こんなに星ってあったんや…とため息をつくくらいの、満天の星空が広がっていて、あたりには風が枯葉を転がす音だけが聞こえた。

しばらくすると遠くで野犬が吠える声が聞こえて、ちょっと怖かったけれど、だんだんと遠くへと消えていったので、大丈夫やろ、と目を閉じた。

まぶたの裏で広がる誰もいない世界。

真っ黒の孤独と、それに比例して沁みてくる、生きてるって感覚。

自分の呼吸の音にドキドキしてしまって、ギターを抱えるようにして眠った。

そんなところです。

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