【アスワン/ヌビア/エジプト】ヌビア人のかわいいお家でリトルバンパイヤに襲われる話
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アスワン三日目!
初日夜、出会った日本人の釣り人パッカーさんが
「音楽好きなら川の向こう側行ってみるといいですよ!向こう側に、ヌビアっていう、アラブ人とは違う種族のアフリカ系の人たちが住んでて、レゲエ好きな人とか多いですよ。」
と言ってて、気になっていたおれ。
早速行ってみることに。
ここアスワンは、ナイル川沿の街だ。
どうやら川を挟んで向こう側が、ヌビアンと呼ばれる人たちの居住区らしい!
川の向こうへは、地元民が使う渡し船みたいなのに乗る。
5ポンド(60円)払えと言われたけど、地元民たちは1ポンドしか払ってない気がするな、、!!
船が出航!ナイルの水は割とすんでいる。
暑いし、これ泳げるんちゃうか?何て思ったけれど、ここはナイル川。
たまにナイルワニが出るらしい。
うむ、"対岸で待つ彼女の元へ、最初にたどり着くのは誰だ!?ラフラブカップル競泳選手権!"とか開催するには最高の川だな。
対岸に到着。
どうやらおれのことを待つ彼女はいないことを確認し、歩き出す。
アスワン側からも見えていた丘に立つちっちゃな塔みたいなのがあって、登ってみようと思ったけど、入場料が500円もするらしくて止めた。
こっちの価値なら宿一泊分やからな!高すぎるぞ!
そして、船を降りた時からずっとキャメルタクシーやツアーのにいちゃんらがつきまとってきてうっとうしい!
振り払うために、人気のないゴミ捨て場みたいな丘に登ったんやけど、
わ!なんだここ!
おれのカメラの技術ではうまいこと表現出来んが、この画像を360度の大パノラマ800インチ液晶ビエラで見てるのをイメージしてほしい!
砂漠の隙間を埋めるようにひたすらに続いていく、青や黄色のカラフルな壁をした家々。
まるで蜃気楼に浮かぶ幻の街のように、突如としてぼんやりと、砂漠のただど真ん中に広がっている!
これがヌビア人の住む家々か。
おかを下り、ずかずかと入って行ってみる。
ヌビア人の色彩センスは独特なんだろうか?どの家も綺麗にペイントされていて、カラフルだ。
#かわいいおうち
と言うタグでインスタであげたら、おしゃれ女子からイイね3万件くらい付きそうな感じの家やな・・
だとするならば…
「わぁ!たびおくんっ!このインスタのしゃしん見てみて!すっごくかわいいおうちだよっ!」
「あぁ、これはエジプト南部からスーダンにかけて独自の文化を形成するヌビア人の暮らす家だね。パステルカラーの派手な色合いでペイントして、砂だけの世界で暮らすなかで自己表現をしていると言われているよ。」
「詳しいねっ!たびおくん!わ・・この人のインスタ、この写真以外は、きたないおトイレの写真や、おさるさんがギターを弾いてるへんなのしかないや・・」
「きっと、1人1人いいねをくれた女の子のプロフィールに飛んでいって、もしこの子と付き合ったら・・なんてパソコンの前でニヤニヤ妄想しているようなキモオタなんだろう。そっとしといてあげなよ。」
「たびおくん、優しいねっ!えっ・・"おしゃれカップル競泳大会、inナイル"!?たびおくんっ!こんなのがあるよ!」
「"愛の力で、一番先に対岸で待つ彼女の元にたどりつけるのは誰か"・・か。おもしろそうじゃん。おれ、昔水泳部だったから自信あるよ。」
「かっこいい!たびこもたびおくんの泳ぐところ見てみたいよっ!じゃこのアスワンって街、行ってみない!?」
とかなるんじゃ!!!
こうはしてられん!!
そんなで、大会のPR広告の作成を急ぎつつ、イイねをくれた女の子たちのプロフィールに飛んでいき付き合って最初の水族館デートの日の妄想などを繰り広げていると、がきんちょたちが現れる。
「うわっ!キモオタが虚ろな目で舌出してぺろぺろしてるっ!きっしょー!ハローハロー!ギター!ギター!」
「む、なんだ名もなきがきんちょども!ギターを弾きたいんだな!ほれ!
うん、よし、ブログ用の写真撮ったら終わりだ!返せ!ほら早く!早くしろ!!」
「カム!カム!」
「ん?家にでも招いてくれるのか?チョコパイに美味しいコーヒーくらい出してくれるんだろうな。いいだろう連れていけよ!」
「お前に食わせるチョコパイなんてあるわけねぇだろうが、カム!カム!」
そんなで、がきんちょ達に引き連れられ、細い路地をガンガン入っていく。
こんなところ、1人では絶対怖くて入れんだろうから、運がいいぜ・・
なんて思っていたら、ずいぶん歩いて、空き地みたいなとこまでやってくると、
ここから先はお前は来るな!
みたいな事ジェスチャーされて、石を投げられてわりと本気で逃げる・・。
くそ、ちびどもめ、次会ったらクヌギの木に縛り付けてたっぷりハチミツを塗って、カブトムシとる罠につかってやるぞ!
というかここはどこだ!
ちびっ子について迷路みたいな道をやってきたために、ここがどこなのか全くわからん・・
試しに人差し指に唾をつけて、風の吹く方向で方角を知ろうと試みるが、確かなことは
「うわ、おれの指しょっぱ・・」
という事しか分からなかったので、とにかく歩かねば!と、わけわからん石造りの家々の隙間を歩き回り、出口を探すおれ。
しばらく歩くと、大通り(といっても車がギリ通れるくらいの道)に出た!
「ヘイにいちゃん!ハローハロー!!タバコでもすってけよ!」
と、通りのベンチに腰掛けたおやじに、一本差し出される。
「おお、人が絶賛遭難中って時に呑気なもんだな!ありがとよ!よこせっ!」
「うまいだろ!!ところでこれはなんだ?マシンガンか?」
「ギターだ!あぁ、でもあながち間違いじゃないね!おれにとってギターは、音楽は時に弱気な自分に勇気を与えるナイフにもマシンガンにもなるのさ!でも時にそれさえも愛で塗り潰し、綺麗な花を一輪咲かす事だって・・
「ごだごだ言ってねぇで早く弾いてくれよ!」
「あぁ!?怪我しても知らねぇぜ!!?行くぜ!!!!愛し合う~ふーたーりーしーあわせのーとき~ジャカジャカ」
「…あぁ、わかった!グッドグッド!よしならもうギターをしまえ!」
「もう一回!笑顔さく~、、って、えっ!?なんか冷たくない!?」
気持ちよく歌っていたのに、なぜか演奏をやめるように急かすおやじたち。
なんだ!自分から大塚愛が聴きたいなんて言っておきながら!なんだあの、特上牛タン980円みたいなあのちょっとエロい曲の方が良かったのか!?なんだよ!
と傷ついてちょっと泣きそうになっていたが、すぐに理由が判明!
「ハイ!!!ハローハロー!!!」
む?
飴に群がるアリのように、どこからともなく湧き出てくるガキンチョども。
「ハローハロー!!!」
「ギターギター!!!!」
「ワッチューネム!!ワッチューネム!!!」
あっという間に無数のガキンチョどもに取り囲まれる。3万人はいるだろうか?
おやじ「早くギターをしまうんだ!おら!おまえら!どっかいけ!」
「ギャー!!!キャハハ!!」
「フェアユーフロム!チャイナ!チャイナ!!!」
なにやら、ちょうど学校が終わりの時間らしく、そんな帰り道に謎の外国人がギターを抱えて歌ってるっていうんで、次から次へと湧いて出てきたらしい。
おやじ「くっ!!ここはおれたちに任せて、お前はいけ!早く行くんだ!」
お、おやじ!!!おれがあんなリア充ソング歌ってたがばっかりに・・すまん!許してくれっ!!
(だっ!!!)
そして、背後におやじの断末魔を聞きながら、命からがらギターを持って逃げ出したおれ。
いや、それでもまだ付いてくる。
「ヘイギター!!ギター!!!」
「チャイナチャイナ!チンチャンチャン!!」
うるせぇぇ!!!
森に続く小道があったので、逃げるために入り込んだ!
歩いて行くと、森の奥からおじいちゃんに声をかけられる。
「旅の人。少し休んで行かんかね?」
「今、リトルバンパイヤ達に追われてて!頼むよ!!」
森の中にポツリ置かれた小さなベッド。
その横でマキを燃やしてお湯を沸かし、おじいちゃんがホットティーを入れてくれた。ミントが入ったさわやかなやつ。
おじいちゃんはエジプト人にしてはうまく英語を喋った。
こうやって迷い込んできた若者にお茶を振る舞って、昔の話でも聴かせるのが趣味なのかなぁなんて思ったが、おれがなにも尋ねなければ、彼もなにも話しはしなかった。
ただただ森の風の音と、ココナツの葉が擦れる音、そして2人紅茶をすする音だけが聞こえる。
ミントの香りがふわりとして、それを風が運んで、森の方へさわやかに流れていく。
さっきまでの喧騒がうそみたいな静かな時間が、なんかとても心地よくて、ギターを取り出して鼻歌を歌った。
おじいちゃんは昔を思い出すように、しわくちゃになった目を閉じて、じっくりと聴いてくれた。
「じいちゃんはヌビア人なの?」
「そうだよ。」
「生まれた時からこの街に住んでるの?」
「そうだよ。」
「家族はいないの?」
「結婚してるよ。」
「ここのベッドで寝てるの?」
「そうだよ。ここは砂漠の街だからね。雨なんて降らないから。」
おじいちゃんの目線の先には小さなベッドが二つ、一つは毛布がかけられててきれいで、一つは木もくさってしまって、今にも森に帰りそうなほど崩れきっている。
長い時間の中で、森と生きてきたおじいちゃん。その歴史にはいろんな事があったんだろう。
深くは聞かなかった。
少しぼんやり、木漏れ日がゆれる地面を眺めながら色々考えて、そろそろ行くか、と立ち上がる。
「ありがとう!」
と向こうに腰掛けてるおじいちゃんに礼を言って、歩き出した。
素敵な場所だったな。
ほんまいろんな人の、それぞれの生活があって、その一つ一つにどんな大編ロードムービーにも負けない人生の旅があるんだ。
こんなにおもしろいものってない。
しばらく歩くと川沿いに出て、それを下って行くと無事船着き場まで帰る事ができた。
アスワン側に帰ってきてから、外国人観光客が多いと聞かされてたマクドナルドの前で歌った。
でも実際、人おらんで全然ダメで、夜になってマーケットの通りに出て、ネックレス屋さんの隣で歌わせてもらった。
お金は100円も入らんかったが、ネックレス屋さんのにいちゃんがお茶をおごってくれたり、行きすがりのおやじがポテチを置いていってくれたりした。
入りが少ないので、路上ライブという観念がやっぱ受け入れられてないのかなぁと落ち込んでいたけれど、にいちゃんに、
「またいつでもやりに来なよ!」
と帰りしに声をかけられて嬉しかった。
とりあえずやり続ける事しかない。
何かつかめるまで。
おれはおれの人生を生きてやるんだ。
そんなところです。
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