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カーボン人間になりたい話

2019年8月1日

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今日の旅の一曲!Syroup16gの “ex.人間"!
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………………..

昨日、ミュンヘンの郊外の草原で目覚めたおれ!!

すぐ近くに高速のインターチェンジがあり、その乗り口でヒッチハイクをして、アウグスブルク行きの車をキャッチしてやろうと企んでいたのだ!

が!!

ビユゥゥゥゥーン!!!!

ものすごい勢いで高速まで突っ込んでいく車たち…

車を止められる沿道のスペースには、大型トラックがずらりと並んで、止まってもらうスペースもない…

無理だ!こりゃヒッチハイク難しいわ。

そう判断したおれは、昨日来た道をとことこと引き返し、ミュンヘンのバススタンドまで。

仕方なくバスでアウグスブルクを目指すことにしたのだけれど。

「今日のバスは夜11時発しかないよ。」

と言われてしまう。

時刻は午前10時、めっちゃ待つけれど、電車で行くと割高なんだよな…

まぁそしたら最後にミュンヘンで歌っていくかな!とか思い、とりあえずそのチケットを購入!

そのまま街に繰り出したんだけれど!

ポツリ…ポツポツ…!!

ちくしょう!!雨が降ってきた!!

雷がなり、激しさを増していく雨。こりゃ歌えんだろうな…

うーーん…ヒッチハイクといい路上といい、うまくいかないことが重なると落ちこんでしまう、、。

オーストリアの時もそうだった。

なにもしてない時間があると、自分が無意味な人間に思えてきて、気が滅入ってしまうのだ。

そんなで、なんかしなきゃ!という焦燥感に追われるように雨の中でも歌えそうな場所を探すが見つけられず、デカいアウトドアショップで、かっこいいテントや靴に、いいなぁと3リッターぐらいよだれ垂らすぐらいしかすることもなく、行き場所をなくす。

あぁ、うまくいかんぜ…

しかたなく、かなり早いがバスステーションへ向かった。

不毛な一日を忘れるように、50円の安ビールを買って、待合場で飲みながら、11時のバスを待つ。

ドイツ各地へ向かうバスがやって来ては、人を積んでまた出て行く、バスターミナルが目の前にある。

雨は激しさを増すばかり、吹き抜けの待合ベンチには冷たい風が流れ込み、天井のどす黒いコンクリートから、ポタポタと雨水がしみ落ちてくる。

おれみたいに何時間も前から来ている人なんていないので、みんな暖かそうなコートやマフラーをして、やって来てベンチに腰掛けては、10分と待たずそれぞれ、やって来たバスに乗りこんでいく。

言葉もなく、ただ無機質に、無表情な、流れるようなサイクル。

その中でおれだけが、ポツリ取り残されてるような気分。

そんなのをただぼんやり眺めながら、さっきまで寒くてたまらなかった体は、ビールの酔いでなんだか少しポカポカしてくる。

簡単で瞬間的な、インスタントな高揚感が、逆におれを淋しくさせた。

はぁ…なにやってんだおれ…。

心の中で、つぶやいて、ため息。

なんとも言えない気分になって、時計を見る。

まだ9時にもなってない。

外は、厚い雲の向こうの太陽が沈んだんだろう、ようやく薄暗くなってきてる。

おれは近くのゴミ箱にビールの缶をなげいれた。

そして二階の、マックなんかが入っているチケット販売ロビーに上がることにした。

ベンチがないんだけれど、室内なので暖かそうだと思ったのだ。

おれが立ち去ろうとすると、背の低いホームレスのおっちゃんが、おれが行くのを待ち構えていたようにゴミ箱へと近づき、手を突っ込む。

おれがさっき捨てたビールの缶を拾い上げると、どこかのスーパーから盗んできたのであろうショッピングカートに投げ入れた。

カートの中には、似たような缶や、ビンのゴミが重なっている。

缶やビンを、スーパーにあるリサイクルマシンに入れると、25セント(30円)貰えるのだ。

おっちゃんは、カートを押して立ち去る時にすこしおれの顔を見た。

満足げでも、悲壮感でもない、ただただ生気を失った無表情な顔をしていた。

二階では、アラブ系のにいちゃんが二人、大きなビニールバッグに入れた荷物を枕に、薄い毛布一枚に二人でくるまって、フロアに直接転がって眠っていた。

見た感じ、バスの利用者って感じはしない。

もしかしたら、シリアからの難民なのかもしれんなぁ…とか思った。

そのほかにも数人の、バスを待っているのであろう若者たちがフロアの壁にもたれかかって、おしゃべりしていた。

おれも売店でホットコーヒーを買って、彼らと同じように壁にもたれかかって時間を過ごした。

この時、バックパックの中身を入れ替えて背もたれにしようと、いじくったのだ。

多分その時に落としてしまったのだ………!!

ぼんやりしてるともう11時になろうとしていた。

下のターミナルに再び降りると、バスはもう来ていて、荷物を預けて乗り込む!

バスの出発と同時におれはなんか安心して、眠ってしまってた。

一時間半後、

「ネクスト!アウグスブルク!」

というアナウンスで目覚めた。

おお!あぶねぇ!!

アウグスブルクも変わりなく雨が降っているようで、バチバチバチと、時折風にあおられてバスの屋根を叩きつけるような雨音が聞こえる。

バスは売店もなにもない、深夜のバススタンドに入っていく…

(ん?なんかあたり真っ暗やけど…)

ミュンヘンのバススタンドは、街のど真ん中にあって、周りには色々と店も開いていたので、アウグスブルクも似たような場所に降ろされるんだと思っていたけれど…

ほんまにここか??なんて不安になる。

停車したバスの前方から、プシューーと扉が開く音がして、

「アウグスブルク!!アウグスブルク!、」

と運転手がブスッとした声で言う。

おおここだ!慌てて降りると、ザァザァ降りの雨に打たれる!!

うぎゃぁぁ!!と急いでトランクの荷物を受け取り、近くの街路樹の樹の下に逃げこんだ!

おれ以外に2人だけ乗客を降ろしたバスは、すぐさま次の目的地へと出発した!

どこだここ!

グーグルマップのGPSを開いてみると、市内から5キロも離れた、郊外の工業地帯みたいなところにポツリ、現在地の青丸が浮かび上がる!

なんでこんなとこにバス停作るんだよ…!!

と、イライラしてしまう。

てっきり駅前とかに降ろされるもんだと思っていたおれ。到着が深夜なので、駅のマックぐらいで朝までやり過ごそうと考えていたのだ。

街路樹で直接雨に濡れることはないものの、時折吹き付ける風に揺らされた幹から、大粒の水玉がバラバラ落ちてきて、肩を濡らす。

風は凍えるほど冷たい。

うぎゃぁ、長くここにもいられん!どうしよ?

あたりを見渡しても、周りの建物は工場ばかり、長距離バススタンドだというのに、時刻表の書かれた案内ポールが立っているだけで、雨よけの屋根もない!

向こうを見ると、さっき一緒に降りた2人が、一台だけ待ち構えていたタクシーに乗り込もうとしてた。

(ここから街に行くのかな…、?一緒に乗せてもらおうかな…?)

と一瞬思ったけれど、でもせっかく電車代節約のために一日待ってバスに乗ったのに…とか考えると、急に勿体無い気がした。

急いで地図であたりを調べてみると、300メートルほど行ったところに、ただっぴろい空き地みたいなのがある!

おれはテントを持ってる!もちろん防水なのだ!この空き地にテントを張って、朝までしのごう!

そう決めたおれは、せーの!で飛び出して、降りしきる雨の中、びしょ濡れ覚悟で、真っ暗な工業地帯を走り抜けた!

濡れながら二、三分走ると、車の工場みたいなのの裏に、奥まで見えんくらいのただっぴろい草原が広がってるのが見えた。

膝の高さくらいまである雑草をかき分けて、誰かに見つかって怪しまれたら嫌なので、奥へ奥へと突き進んだ。

ひ、ひぇぇぇ!!!!!

穴の空いた、ニセモノのノースフェイスの靴底に、グシュリと泥水が染み入ってきて、冷たくぬらす。

うわぁぁ、早くテント立てて、タオルで拭かなきゃ!

適当な樹の陰にちょうどいいスペースを見つけ、ここでいいや!と立ち止まる!

早くテントを!!!

おれは、凍える手で畳んである丸めてあった下敷きのシートを広げる!

んて、屋根となる防水のシートを上に重ね……

骨組みとなるポールを…

ポールを…

あら。

どこいったの?ポールちゃん…

バチバチバチ!!!!!

絶え間なく、広げたビニールシートの上に雨が降りしきるのを、自分もずぶ濡れになりながら、固まって5秒くらい見つめていた。

思考停止である…!

早くポールをさして、テントを立てなければならないのだけれど。

ポールが無い…

うぎゃぁぁぁぁぁうそやん!!!

え!!?バックパックに刺してあったポール!??え!??どこ!!??

どれだけ探しても見つからん!サイドポケットに刺して、ぎゅっと縛ってあったヒモは解けてしまっている…

ミュンヘンのバス停か…!?それとも預けたトランクの中か…??

とにかく最悪のタイミングで失くしてしまった!!!ひやぁぁぁ!!!!

焦ったおれは、すぐさま屋根のある建物を探すべきところを、何を思ったか防水シートの下に潜り込んでみた。

もちろん骨組みがないただのシートをかぶっただけでは、逆に溜まった雨水がシートを伝って流れ落ちてきて…

うぎゃぁぁぁつめてぇ!!!やめて!!!

おれはようやくその無意味な行動に気づき、ビシャビシャのシートから這いずり出ると、一式を背負いあげて再びきた道をかけもどる!

ビシャ!ビシャ!!

溜まった泥水を踏みながら漆黒の闇の中、ずぶ濡れで草原をひた走るおれ。

もう気分は、密林でゲリラ兵士に追われる戦争映画のようである…

ようやく草原を抜け、さっきのバス停の方角へ戻る途中の、工場の軒下に逃げ込んだ!

はぁ!!はぁ!!つ、つかれた…

1メートルほどだけ、二階部分が突き出した格好の工場の、その隙間。

幅が十分ではなく、はねた水しぶきがピシャリぴしゃりと跳ねてきたけれど、とりあえずはしのげそうだ。

しかし。

上がった息が整ってくると、濡れた体がキンと冷えてきた。

うううううううさみぃぃぃい!!!

おれは靴下をかえてみるが、シャツとズボンは、今履いてるやつ以外は半袖短パンしか持っていない…

しかたなく、寝袋を取り出して、体を包んで膝を抱くように座ってみるも、寝袋もじとりと湿っていやがる…

寒い…

凍えながら、体を丸くして少しでも温度を保とうとするけど、濡れたつま先から、首元から、氷を当てられたように冷たい空気が流れ込んでくる…

いやぁぁぁ…

とりあえず半袖、半ズボンも上から履いてみて、服を入れていたビニール袋に両足を突っ込み、今持っている全てを尽くして体温の低下を抑えようとチャレンジする!!

もうまじで、雪山遭難してる気分…

それでも、びちゃびちゃの服が、徐々に生暖かくなってきた。

体の震えが収まってきて、眠気が襲ってくる。

雨は、時折弱まって、また強く叩きつけてを繰り返す。

さっきの、同じバスだった2人を降ろしてきたのか?向こうのバス停のロータリーには、黄色いタクシーが一台、止まってる。

ウィンカーがカチカチと、雨の中でぼんやり光っている。

遠くてドライバーの顔は見えんが、まるで、

“そんなとこケチっても仕方ないぞ?はやくタクシーに乗ってしまいなよ?ほら?"

とにたにたこっちを見て、誘ってるように感じる。

うるせぇうるせぇ!!おれは生き延びてやるんだ!!こんなとこで死んでたまるか!!朝を迎えてやるんだ!!

とか、大げさなことを考えながらタクシーを睨んでみた。

まぁ、どっちにしろタクシー乗るほどのお金、持って無いのだ…

「ハーイ?&;$:&@@;&&?????」

ハッとして、埋めていた顔を寝袋から出す!

工場の警備員さんだ!

「$;@;@;@;&;@??」

「そこのバス停でバスを降ろされて、朝の市バスを待ってるんです!」

「アー。レイン。レイン。」

警備員さんは、ドイツ人には珍しくあまり英語をしゃべらなかったけど、まぁこの状態、言いたいことはすぐ理解できる。

深い夜の闇の中。おれは膝を抱えたままいつのまにか眠っていたようだ。

以前空は暗くて、さっきよりはマシだけれどざぁざぁと雨が降ってる。

「&;&;&/@"@;):@@"/。」

「え?」

警備員さんなんか言ってる。

あまりにも心細いもんで、何をどう思ったか、すごく都合よく解釈してしまうおれ。

「警備室で寝ていきなさい。風邪ひくよ!」

と、言われたのだと思ったのだ。

だから、

「いいのですか!!?」

と、一瞬、表情を明るくさせたけど。

「ノースリープ!ヒア!ノー!」

ぶっきらぼうに言う警備員さん。

ガラスみたいなおれの心が割れる音。カシャン…

おれが一瞬、変にテンション上がったから不審がったのかな?警備員さんはいっそう怪訝な顔をして、くるりと背を向けて行ってしまった。

いや、そりゃそうだよ。外とはいえ、怪しいアジア人がひと気のない工場の周りで一人寝てたら、そら追い出すにきまってるよな…

と後で思えば当然という感じだけれど、この時のおれは、

なんだよ!こんなに寒い思いしてるのに雨の中へ追い出すなんて!あんた人の子か!!?

ぐらいに、悲しみに打ちひしがれていた。

あぁ、ばかなおれだ。

そんなで、工場を離れ無いといけなくなったおれ。もう最高にやるせない気持ちで、荷物をまとめ、また雨の中に飛び込む。

もうなんか、急いでも仕方ない気がして、全部諦めたようにトボトボ、濡れながら歩いた。

心も体も冷え切っていた。

まじ日本に帰りたい…

とか思って、泣きそうになっていた。

雨は、そんなおれの気持ちなんておかまいなしに豪快に、生乾きだったシャツを再び濡らす。

グジュ!グジュ!グジュ!

穴の空いた靴が、歩くたびに不快な音を立てながら水を吸う。

ギターバックの先が街路樹の枝に当たって、葉の水滴がギャグみたいにおれを直撃する。

ザッパァァ!!!!

…………

「ははははは」

なぜかおれは笑った。

おれはおかしくなっていた。

(どうせなら、もっと降れ!もうおれの存在ごと、全部洗い流すぐらいに、もっと振ってくれよ!

いっそこのまま雨にドロドロと溶けて、土に還ってしまいたい。

溶けてしまって、何事もなかったように、新しい生き物として生まれ変わりたい。

あぁしかし溶けない。おれの体は溶けない。

紙でできてたら良かったなぁおれの体。

カーボン人間に生まれたかったなぁ。

カーボン人間。

カーボン…あぁ…)

この時、自分の顔を鏡で見る事ができていたなら、そのとんでもない表情に、おれは完全に絶望していただろう。

それぐらいの境地をさまよいながら、狂人のごとくふらふらと、道路沿いを数百メートル歩いた。

工場に挟まれた通りをぬけると、路面電車の駅があった。

駅といってもバス停みたいなもんだったけど、四人掛けのベンチには透明な風よけと屋根が付いてた!

雨がしのげる!

正気を取り戻したおれは、駆け寄って潜り込んだ。

風よけがあったので、濡れた服が風邪に吹かれて冷されることがなく、幾分暖かく感じた。

路面電車の時刻表を見てみると、始発のメインステーション行きは午前四時にやって来るらしい。

時刻は3時過ぎ。

おれはもう一度、濡れた寝袋を取り出してはおり、ベンチの上でまるくなった。

負けるか…

そう心でつぶやいていると、また気づけば眠りに落ちていた。

そんなところです。

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Posted by gamoyuki