【ヒホン/スペイン】さよならから始まる事がたくさんある話
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2人のバスの時間になった。
ずっとずっと、孤独だけが友達みたいな、すごく価値はあったけれど心細い旅を続けてきてたんだ。
あとで聞いたら恥ずかしくなるような暑苦しい話や、なんでもない、「空が青いっすね」、「そうだね」なんて会話をかわしながら過ごしたなめらかな時間も、終わりの時。
また日本で!お互い気をつけていい旅にしよう!
ってハグして笑顔でバスに乗り込んだももさんとしょーこさん。
そう、ほんとまた半年もしたら日本で会えるんだろうけれど、もう一生の別れのように大げさに感じてしまって、でもアホやな、大げさなんじゃい!と言い聞かす自分もいて、乗り込んだバスのスモークガラスの奥の、かすかに見える2人の影をずっと探してた。
6時になって、「もういいだろ?」なんてあきれ声で言うように、プシューと息を吐いたバスはゆっくりとターミナルを出て行く。
すごく心細くて、小さく手を振って、スピードを上げていくバスをずっと見てた。
こうやって切ない思いにさせる出会いができて嬉しいんだ。
また会いましょう、必ずや。
おれが滞在してたヒホンというマイナーな海岸線の街までわざわざ、世界一周ハネムーン中の2人が会いに来てくれたのだ!
日曜日は路上も出来ないので、最高に見晴らしのいい町外れの丘の上で、タラタラ語りながら過ごしたんだ。
草原に吹く潮風は肌寒いくらいに爽やかで、じゃんけんに負けたおれとしょーこさんで街に買い出しに行った以外は、とくに何をするでもなく海を眺めて、ビール飲んで、買ってきたピザを食べて、「う、うまいいい!!!」なんて声に出して誰かと共有できる幸せを感じて。
昼下がり、このままずっと公園にいる訳にもいかんので、みんなで丘の下のビーチにピクニック気分で降りてみると、とんでもなかった!!
細い急な階段を下って断崖絶壁に囲まれた、隠れ家的なビーチに出てみると、驚愕!!
たたずむおじいちゃん、おばあちゃん、そのすべての人たちが全裸なのである…!!
多分おれ一人なら恐ろしくて、いられんくなって早々に逃げ出してしまっているところだろうけれど、2人とならずかずか入っていけた。
人のいない崖の下の影で、遠くで仁王立ちするおじいちゃんの股間にたわわに実ったナスを眺めながら、ワインを飲んだ。
おれの独断と偏見で塗り固められたケータイBGMをDJして、ハンバートハンバートという夫婦デュオの"おなじ話"という曲が流れる。
「これ!!この曲がまたいいんですよ!!僕の予想ですけど、旦那さんの元彼女さんが亡くなっちゃったんですよね、んで、その彼女へ向けて書いた、男側からの曲を、今の奥さんが歌ってるんです!!一瞬、えぇ!!?って思うんですけど、考えてみるとすごい愛ですよね!!?想像してみると、はぁ!!はぁ!!なんていい曲なんだろう!!ふんがふんが!!いったい本当の愛ってやつは…!!お、おうふっ!!」
好きなものの話になるとキモオタブルドーザーとかすおれの聞くに耐えないひとりよがり語りを、
「最後、彼女が天国にいっちゃったんだね…いい曲だね…!!!」
と一緒に感動してくれる。
丘に戻ると、やがて太陽は西の山に沈んでいって、オレンジジュースみたいな滑らかな色をした空と海を眺めて、いろんなことを話したんだ。
これまでの旅の中で起こったことやフェチの話や子どもの頃の馬鹿な話から、国際社会についてや差別問題、日本人に生まれてよかったかどうか、とか。
わざわざ海外で、日本人と会って語るなんて意味ないじゃん!と言う人もいるかも知れないけれど、おれは大好きなんだ。
日本じゃ絶対できないような、外側の視点から見た自分の国の話ができるから。
「実は私達も、この旅の中で差別的なシーンを何度か見たの。」
しょうこさんが経験を語ってくれた。
宿で、アジアンに対して冷たい雰囲気を与えられたことがあったそう。
また、最初中国人だと思われてて、それまではすごく冷たかったり、邪険に扱われたりしてたけれど、日本人です、と伝えると急に態度が良くなった事があったそうで、それにも疑問を持って語ってた。
「おれたちはいいけどさ、中国人の立場からしたらすごく辛いよね。その国に生まれたってだけで、その人がどんなにいい人でも最初から決めつけられて悪く言われるんだから。日本人だって聞いてからみんな優しくなったんだけれど、あれは良くないよね。」
ももさんが語る。
いつだって相手の、または第三者の気持ちにもたって考えてあげられる2人の感性が好きだ。
出る答えは、
「こういう事が、日本では絶対起こってほしくない!」
ってこと。
でも、世界を見てきて正直薄々感じる。
日本はものすごく閉塞的で、差別的な国じゃないか?
今日本にはほとんど、日本人しかすんでないけれど、これは世界的に見たらものすごくユニークなケースだ。
世界のほとんどの国は、たくさんの少数民族や、出稼ぎの移民が集まって形成された多民族国家だ。
アメリカでよく白人と黒人の対立が問題になるけれど、実際日本に住む人の2割、3割とかを、全然肌の色も文化も違う人たちが占めてたら、似たようなことは必ずや起こっているだろう。
ほぼ単一民族国家である今でさえ、いろんな問題がおきてる。
在日朝鮮人やアジア系移民に対するヘイトスピーチやネットでの攻撃、サッカー場で起きた差別発言、横断幕のやつなんかもそうだ。
イメージしないといけない。
おれたちが旅をして、知らない国の街を歩く時に、同じ事をされたらどうだろうか、と。
おれたちはブログを書いてて、偶然にも、多くはないが不特定の人たちに経験や考え方を発信することができる。
おれ達は正味、
“ブログ村で一位になりたい!!"
とか
“アフィリエイトで生活したい!!"
とせつに思ってるわけではなくて、自分の考えや感じたことを自己満でタラタラかける場所が、そしてそれを見てくれる人があったなら幸せだなぁ、ぐらいの感覚でブログをやってる。
でも、何かこのブログで社会に影響を与えられるのであれば、少しでも、日本のネットやテレビ、社会の当たり前に"疑問を持つ"という感覚を読んでる人に持ってもらいたい思うんだ。
反韓、反中と、人を叩きたいだけのくだらない掲示板ばかり真に受けて、リアルを知らずに生きるなんてもったいなさすぎる、と、おれは思っているから。
そんな感覚を共有出来る人なんて、なかなか日本じゃ見つからないから、こういう旅先での、気の合う人たちとの話ができるのは本当に幸せだったのだ。
太陽が暮れてしまった。
青と赤と、紺色が混じり合って織りなす美しい光のショーみたいなのが、水平線広がる大西洋をステージに繰り広げられている。
ももさんがボソッと言った。
「365日のうち夕焼けが一回だけしか見られないなら、こんな美しい景色他にないだろうな。」
確かになぁ。
ホロ酔いでギターを弾いた。
2人が優しい表情で聴いてくれてるのがうれしくて、くるくると回る感覚そのままに、昔の曲や最近作った曲などたくさん歌った。
アドリブでも歌って、なんだか言葉ではうまく伝えられん事も歌えた気がして、うれしい。
海のように深い感受性で受け取ってくれて、素敵な夜になった。
最終日!2日間過ごした丘から一時間かけて下ってきて、公園で飲みながらバスの時間を待った。
2人はこれからアンドラを目指してスペインを縦断するそう。
みんな日本に帰ったら、島でキャンプしたり夏フェスに行ったりするんだ!
そうやって次を考えられる事が幸せなのだ。
二人のバスの方が時間が早かったので、バス停まで見送りに行った。
ちょっと感傷に襲われながら、ゆっくりと発車していくバスに手を振って。
おれはまた、ひとりになっちゃった。
けど、ネックレスの石のかすかな重みが心強くさせる。
マクラメの得意なしょーこさんが、別れ際プレゼントしてくれたのだ!!
ゴアで買ったらしい、深い緑色をした、すごく素敵なやつ。
2人が行ってしまって、赤ちゃんのおしゃぶりのようにずっと手でいじってる気持ち悪いおれだ。
うむ、いつまでも感傷に浸ってもられん!
おれの、マドリードへのバスは夜10時に出発する!
それまで、このヨーロッパでの最後のライブをしてやるんだ!!!
よろよろとビーチ沿いに出てきて、適当な場所で一時間ちょい歌う。
うむ、寝不足と歩きあるきつかれでタンバリン刻むのでやっとみたいな感じで、満足出来る出来じゃなかったのだけれど。
いつだって全力で歌い続けてきたこのヨーロッパで、最後の最後まで歌いきったっていう実感が湧いてくる。
最後に、昨日作った日本語の曲をやった。
ずっとメロディは浮かんでたんだけれど、うまくはまる歌詞や雰囲気を探してた曲。
“きっとこの度が終わるころに 君の事迎えに行くから
普段着のあのワンピースで「おかえり」って言って欲しいんだ。
心の底を突き刺すような バンソウコウの奥が痛む夜は
ちょっとそこまで歩こうよ。なんか寒いねって、手つなごうよ。
大切だからって押入れにしまったものから
「どこいった!?」なんて、なくしていくばかりのおれなんだ。
明けそうで明けない冷たい風に吹かれ夜をいく
原チャにセブンのおでん乗せて君に会いに行こう。
泣きそうで泣けない 果てない海岸線を歩いて
好きな歌くちづさめば まだ歩ける気がした。"
ビルの向こうに太陽が隠れて行って、ゆっくりとビーチから人がいなくなっていく。
無関心なようで抱擁感があって、優しいようで厳しくて、美しいようで無機質で、でもその奥、もっと奥に真の美しさを感じて。
深い深い文化とカルチャー、そして何気ない自然の美しさ。
苦しい事も多かったけれど、本当にヨーロッパに来れて、音楽で旅をしてよかった。
感謝の気持ちで過ぎ行く街を見送り、バス停へ。
定刻通りやって来たバス。
さらばヨーロッパ。空港に着いたら、ついに、ついに南米だ!!
そんなところです。
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