映画『グリーンブック』が良かったので、人種差別について南アフリカの旅で感じた事など思い出す話。
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ナマステ!ぼっちシンガーです。
路上ライブで世界一周の旅を終え、現在は東京で音楽活動中。
旅と音楽について、毎週金曜日にブログを更新中!
コロナ渦で世界が揺れている昨今、アメリカやヨーロッパなどで、
アジア人であるというだけで襲われる事件などをよく目にするようになってきた。
人間には、不景気や心理的に不安な状態が続くと、
マイノリティーな存在を締め出して、自分の居場所を守ろうとする、
そんな本能があるのかもしれない。
しかし現代ではそうした行動はもちろん厳しく罰せられ、
当たり前に『差別は悪い事』という認識が(表面上では、かもしれないが)しっかりと認知されている。
しかし、僕たちが生まれるほんの数年前までは
『人種差別』が政府公認で、当たり前のように許されていたようだ。
最近見た映画でその当時の社会を垣間見る事が出来た。
もくじ
『グリーンブック』という映画が良かった。
『グリーンブック』は、2019年に公開された映画。
アカデミー賞も受賞した映画なので見たことがある人も多いかもしれない。
1962年のアメリカ・ニューヨークで、天才と称され人気のあった黒人ピアニスト・ドクターが、
イタリア系移民のガサツな大男、トニーを運転手に雇い、
当時まだ人種差別が根強く残っていた南部をコンサートツアーで回る、という内容のお話だ。
実はこれ、実話をもとにした映画だそうで、
ドクターはドン・シャーリーという実在する黒人ピアニストである。
ストーリーの中で、ドクターは超有名ピアニストであるにもかかわらず
黒人であることを理由に様々な差別を受ける。
『お会いできて光栄です!』
とコンサートの主催者から歓迎され、握手を交わしても、
その直後に案内される控室が黒人用のぼろ小屋だったり。
パーティ会場では丁寧な言葉使いで
『お客様はこちらの席はご利用なれません』
と笑顔で有色人種用のランクの低い席を案内されたり。
これらのシーンもすべて、当時の南部アメリカのありのままを描いた実話エピソードだそうで、
『超有名人でVIP』と皆が認識しているにもかかわらず、
当たり前に『人種差別』される様が、見ていて不思議な感覚であった。
作品では、そんな当時のアメリカ南部の生々しいリアルを見せつつ、
しかしユーモアにあふれたテンポの良い展開で、最後まで引き込まれっぱなしだった。
プロパガンダ的に『黒人差別反対!!』と大声で叫ぶような作品ではなく、
ただ淡々と、当時の残酷な価値観をありのままに表現していた印象だ。
それにより、より現実味を感じて、もし自分がその時代を生きていたら…などと考えさせられた。
政府公認の人種差別はついこの間まで存在した。
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この映画を見て僕が感じたことは、
『政府公認の人種差別は、こんなに最近まで存在していたんだなぁ』
ということ。
肌の色で、住む場所や仕事を制限される、公共物の使用を制限される、交通機関の車両を区別される、
などの差別制度は1964年の公民権法制定まで、アメリカで合法的に許され、施行されてきた。
当時の人々の中では『差別はあって当たり前』と言う価値観だったのだろう。
グリーンブックの中でも、レストランで有色人種専用の席へと案内した支配人は、
抵抗するドクターにこう言った。
『この街のNBA選手が優勝パレードでここを訪れた際も同じように、有色人種席に案内して対応しました。そういうものなのです。ご理解ください。』
ここまで人々の潜在意識にこびりついた差別意識を変える、と言うのは相当大変だったようで、
以下の記事では、差別問題の意識が人々の間に広がってきた時代に、
黒人との融和を許さない白人たちの過激な抵抗の様子が紹介されている。
このように、あの大国アメリカでも制度上の差別が撤廃されたのがたった50年前。
南アフリカのアパルトヘイトが撤廃されたのは1994年である。
あからさまな人種差別を現代も実施している国はないと思われるが、
差別の定義を民族や宗教、ジェンダーも含めて考えるとまだまだ世界には多くの問題が存在する。
イスラエルではパレスチナ人への居住制限などの迫害が横行し、
中国でも少数民族への人権弾圧が多く報告されている。
タリバンが政権を奪還したアフガニスタンなど、イスラム教の一部の国々では、
女性の就労禁止など性差別が宗教の元当たり前のことと認識されている。
これらの差別が完全になくなる日は一体来るのだろうか?
人種差別について深く考えた南アフリカの旅。
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昔世界一周の旅をしていた時に、南アフリカ共和国を訪れた。
25年前まで、アパルトヘイト法で黒人と白人の住む場所が明確に分けられ、差別されてきたこの国では、
人種差別法の撤廃後、新たな問題に直面していた。
ヨハネスブルクという中部の経済都市を訪れ、高層タワーに登って街を眺める観光ツアーに参加した時の事。
その時の、黒人ガイドのおじさんが話してくれた内容が興味深かった。
ギャングに制圧され空き家状態になってしまったというビルや、
治安が悪化してゴーストタウン化したエリアの話などをした後、彼はこう話した。
『アパルトヘイト前、この都市には白人が多く住んでいて治安が良かったが、
アパルトヘイト後、居住権の自由を得た黒人労働者がこの街に大挙してあふれ、
治安が悪化したんだ。』
彼は、自身がアフリカンなので、
『治安が悪化した途端に白人たちは、無責任にすぐにこの街を捨てて郊外に逃げていった。
だから管理者がいなくなって、このように無法地帯になってしまった。』
と、治安悪化の原因を白人たちのせいにしたが、
僕はその悲壮感あふれるその話を聞いていて少し思った。
(それではまるで、アパルトヘイトがあった時の方が良かったみたいじゃないか。)
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しかしその後のツアーで訪れたアパルトヘイト時代を語り継ぐミュージアムを見て、
そんなことは決してないと思えた。
ミュージアムでは、当たり前に人種で居住区やレストラン、
トイレなどを区別されていた当時の看板やポスターがたくさん展示されていた。
白人専用の施設と有色人種(南アではCOLORSと表記されていた)の施設は雲泥の差であり、
まるで犬や猫のような扱いを受ける我々有色人種の当時の暮らしをイメージし、ひどく悲しかった。
生まれ持っての肌の色や民族で差別されない、人間らしく生きる事が出来る権利は
都市機能不全などとは比べ物にならないくらい大切なものだと確信した。
正直、有色人種として、当時の白人に強い嫌悪感さえ抱いたが、しかしそれでは何も解決しない。
事実南アフリカでは現在、黒人ナショナリズムの精神が膨れ上がり、
逆にヨハネスブルク市街地のような”白人追放”の動きが加速しているらしい。
ミュージアム入口には、アパルトヘイト撤廃の主導者、ネルソンマンデラ氏の言葉が彫刻されていた。
“To be free is not merely to cast off one’s chains but to live in a way that respects and enhances the freedom of others."
ネルソンマンデラ
(自由とは、ただ単にからまる鎖を解くことではない。他人を敬い他人の自由も尊重しながら生きることだ。)
すべての人がこんな優しい気持ちで他者を尊重しながら生きる事が出来れば、
この世界の多くの問題は何でもない石ころに変わるのにね。
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このように、アパルトヘイト撤廃によって変わりゆく社会を垣間見た南アフリカの旅であったが、
宿泊していたゲストハウスでは、これらの問題の答えにもなるような体験も出来た。
そこは郊外の静かな安宿。
夜になるとオーナーのイアンが近所の人たちを誘っては、
趣味で集めているというワインを開けて、ささやかな食事会を開く。
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オーナー自身は白人なんだけれど、そのオープンマインドな性格からか、
招かれてやってくる人々は人種も年齢も、性別も様々。
黒人、白人、インド系、そしてアジア人の僕…
そこに人種の垣根は全く感じられない。
とりとめのない話をして盛り上がる、ヨハネスブルクの何でもない食卓の光景は、
かつてアパルトヘイトによって規制され実現不可能であった、奇跡のような光景なのだ。
半世紀前にキング牧師が『I have a dream』のスピーチで、
『かつての奴隷と奴隷所有者が同じテーブルの上で食事をとる事』を夢だと語っていたように、
それは多くの犠牲のもと被差別者たちがつかみ取った、
最高に特別な『普通の日常』であったのだ。
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食事会の途中で、食卓の電球が切れて、部屋が暗くなった事があった。
参加者のアフリカンの一人がジョークを飛ばす。
『困った!白人の皆さん、こっち来てくださーい!僕らが真っ暗になっちゃう!』
見た目の色で優劣をつけるのではなく、それぞれ誇るべきアイデンティティとして、
お互いに尊重しあう姿勢が大切だと思うし、
こんな風にだれも傷つかないギャグで、それぞれの違いを笑い飛ばせたら、最高だ。
そんな事を考えたりした、南アフリカでの滞在だった。
まとめ
以上。映画グリーンブックを見て人種差別についていろいろと考えたり、思い出してみたりした記事でした。
世界の旅をしてきた経験から、世界の人種差別についていろいろと考える事は多かったけれど、
日本にも、制度上は問題なくとも様々な差別が未だ残っていると思う。
身近なところから、人々の根底に潜むそういう問題を、改めて認識していかなくてはならないと思う。
とにかく映画とても良かったので時間ある人はぜひ。
また、黒人差別の時代背景のなかで、音楽に救いを求めた人々がジャズやR&Bなどを生み出した、
アフリカンアメリカンの音楽的アイデンティティを知れる本として、こちらも面白かった。
良ければぜひ。
そんなところです。
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