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『これはただの夏』燃え殻さんの新刊が良かった話【けもの聴きながら読みふけった夏】

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ぼっちシンガー
ぼっちシンガー

ナマステ!ぼっちシンガーです。
路上ライブで世界一周の旅などを経験し、現在は東京で音楽活動中。
旅と音楽、香港人妻氏との日常などを語るブログだよ!

『けもの』じゃん!

そのタイトルを見たとき、とある女性アーティストの名前が浮かぶ。

なんでけものの曲名が本に!?そんな驚きとともに思わずその小説を手に取る。

彼女が、眼鏡を外したら

ソーダ水の泡がはじけて

これは、ただの夏 高気圧の、勘違い

車で迎えに、ゆくから

けもの「ただの夏」歌詞より引用

脳内で、あの夏の少し冷えた朝もやの中を散歩するような透明なイントロと歌詞が流れてくる。

友達に教えてもらってから、すごく好きなんだよなーあの曲。

(この小説、夏にこの曲を聴きながら読んだら気持ちよさそうだな)

その程度の軽い動機から、なんの前情報もなしに買ってみた小説。

でも、大正解。

あの曲の世界みたいに、もやに包まれた夏の早朝のアスファルトみたいにすこし冷えてて、

それを裸足で歩いているみたいな気持ちになる、読んでて心地いい小説だった。

『これはただの夏』燃え殻さんの新刊が良かった

その瞬間、手にしたかったものが、目の前を駆け抜けていったような気がした。
「普通がいちばん」「普通の大人になりなさい」と親に言われながら、周囲にあわせることや子どもが苦手で、なんとなく独身のまま、テレビ制作会社の仕事に忙殺されながら生きてきてしまった「ボク」。
取引先の披露宴で知り合った女性と語り合い、唯一、まともにつきあえるテレビ局のディレクターにステージ4の末期癌が見つかる。 そして、マンションのエントランスで別冊マーガレットを独り読んでいた小学生の明菜と会話を交わすうち、ひょんなことから面倒をみることに。

燃え殻 『これはただの夏』特設サイト より引用

あらすじはこんな感じ。

ドラマチックな大恋愛や感動の家族愛とかを期待する人には、あまりお勧めできないかもしれない。

なぜならこれは、添加物も着色料もなしの、まさに『ただの夏』を描いた作品だから。

今もアパートの隣の部屋で繰り広げられていそうな、むしろ自分もいつか昔に体験したことがあったような、そういう素朴さと親近感が、この小説のすごさだと思う。

ドラマチックに出来なかった自分の人生と重ね合わせて、あぁ、やっぱ人生そういうもんだよねって安心感さえ感じちゃうほどの圧倒的リアリズム、

30代、40代と、普通に更けて普通にゆっくりと死んでいく僕たちの毎日のように、

ただゆるゆる、ずるずると、夏の深部に落ちていく、そういう生ぬるいやるせなさに、自傷気味につかっているのが心地いいのだ。

そのぬるま湯に風邪をひいてしまっても、結局幸せなのか不幸なのかもわからないまま死にゆくとしても、

なーんか、生きているだけで美しいし、正しいのかな、とか考える。

読み終えた後に気づいたんだけれど、昔読んだことがある燃え殻さんの作品、「僕らはみんな大人になれなかった」の続編でもあるらしい。

何年も前に読んで内容を忘れてしまったので、今度読み返してみようかな。

やっぱりタイトルは『けもの』の『ただの夏』から

読み終えてから、この小説のプロモーションビデオが存在することに気づく。

そのバックミュージック…やっぱり『けもの』やんッ!!!

なんか、ミステリーの答え合わせみたいな気持ちで勝手にうれしくなる。

あらためて、『けもの』とは女性シンガーソングライター青羊(あめ)さんのソロプロジェクトバンド。

こちらの記事によると、作者の燃え殻さんがライブで「ただの夏」を聴き、その際に着想を得て執筆が始まった作品なんだそうだ。

まさに、そのライブが極上のインプットだったのだろう。

その短い一曲の音楽から、240ページの小説の世界を作り上げてしまえる燃え殻さんの感受性の高さと深さに驚くとともに、

たった5分間の音の世界で、その小説の世界を作り上げてしまえるこの曲の魔法のような美しさを、再確認したような気分だ。

ちなみに、この小説の解説を書いている音楽家菊地成孔さんという方は、けもののプロデューサーでもある。

難解なあとがき解説ではあるが、ここでもけものの「ただの夏」を匂わせる記述がされていて、最後まで読んでてて楽しかった。

まとめ

以上、『けもの』の曲からインスピレーションを受けた燃え殻『ただの夏』がよかった!と鼻息荒く語りたいだけの話でした。

僕もたまに印象に残る映画や本を見終えた後に、その時の感情を忘れてしまいたくなくて、曲にしたりするのだけれど、そういうアウトプットを伴う作品に出会えるとうれしくなる。

この小説を読んで、これは誰かに伝えなきゃ!とか勝手な使命感でこのブログ記事を書いているのも、似たようなものなのかもしれない。

だれかの創造の出発点になれる作品、何かを作り出さなきゃと掻き立てられる作品。

そういう素敵な作品に、この夏出会えてよかった。

とにかく、味わい深くて素敵な小説なので、雨の降るしっとりとした休日にでも読んでみてください!


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